移住と出産がもたらした、静かなブレイク
一時的な離職・休職等によるキャリアの中断を肯定する
欧州発祥の「キャリアブレイク」という考え方。
しかし日本では、今もなお、定職から離れた期間は
「ブランク」と一括りにされがちです。
けれど本当にそうでしょうか。
キャリア=人生の轍という意味だと考えると、
それらは単なる空白の期間ではなく、
キャリアの“文脈が変わった時間” ではないでしょうか。
国際結婚で移住したことをきっかけに、
キャリアブレイクを経験した高原(仮名)さんも、
そんな一人です。
人生の途中で立ち止まり、自分を見つめなおし、
新たな人生の転機となった『キャリアブレイク』。
この【体験談】シリーズ*では、
経験者たちが、ブレイク時間をどう過ごし、
どう人生の転機と向き合ってきたのかー。
彼らのキャリアブレイク経験をお伝えします。
1:日本を離れる決断と、同時に訪れた妊娠
3年前に会社を退職し、米国へ移住した高原さん。
きっかけは、その数年前に帰国した彼との結婚です。
日本で知り合った彼が、米国の家族の近くで住み、
生活の基盤を築くため、先に渡米していたのです。
もともと、英語を使う仕事をしていた高原さんは、
いつかは、海外でグローバル経験を積みたいと、
米国への移住に期待も抱いていました。
そしてなんとか、無事に渡航許可がおり、
9年間勤めた会社を退職し、渡米した彼女。
新しい環境での生活を始めようとした矢先に、
思いもかけず、妊娠が判明。
高原さんにとって、人生の大きな転換点が、
同時に重なった瞬間だったそうです。

2:「何もできなかった」キャリアブレイク期間
夫以外には知人もいない、移住先での妊娠生活は、
日常を送ることだけで精一杯だったと言います。
渡航前から、チャレンジしたいと思っていた仕事や、
今後について考える時間すら、持てませんでした。
「何か行動しなければという、焦りはありましたが、
とにかく悪阻がひどく、体がついていかない。
外出もままならず、ほとんど何もできなかったです。」
現地では、共働きを前提としていたので、
”安定した収入や定職がなくなることへの不安は、
正直、常に頭の片隅にありました”と話す彼女。
日本の仕事を辞めて移住し、
再び働くまでの1年数か月。
高原さんにとっては、このブレイク期間は、
環境と体調に導かれる形で生まれた時間でした。

3:米国で見た、キャリアブレイクの捉え方
育児が始まってから、少し外出することも多くなり、
夫の友人や地元の集まりなどで知人が増えた彼女。
様々なキャリアへの考え方・生き方を知ったと話します。
「周りには30代以上からでも大学に通い直す人や、
頻繁にキャリアチェンジを目指す人も珍しくない。
中には、
”あえてのキャリアブレイク=無職期間”を取り、
ボランティア活動や、独立の準備に充てる人も。
退職や転職そのものが特別なことではなく、経験値や
スキルをどう積み上げているかが重視されているなと。
”一度止まること自体”が、必ずしも
ネガティブには捉えられていない空気がありました。」
4:思いがけず訪れた再始動
切れなかった“細い糸”
米国でのキャリアブレイク中、
積極的な求職活動はしていなかった高原さん。
ただ、日本で働いていた会社の米国支社とは、
細くだけど、連絡を取り続けていたそうです。
「その仕事は実現しなかったが、
”完全に縁を切らない”ことが、大分後に
後に大きな意味を持つことになりました。」
思いかけないスカウトで再スタート
出産から半年ほど経った頃、ある会社から
思いがけずスカウトの話を受けた高原さん。
出産前と育児中の隙間時間に、時折、
経歴などを更新していたサイトを通じてでした。
その米国会社は、ちょうど日本語で発信する
ソフトウェアを開発しており、コンテンツ原稿や
言い回しをチェックできる人材を探していました。
「契約という形でしたが、フルリモートで、
育児との両立にも、申し分ない働き方でした。
渡米前に思い描いていた、キャリアの形ではなかったが、
ブレイクの終わりは、静かにやってきたんです。」

5:振り返って思う、私の”キャリアブレイク”
当時は、仕事のブランク時間を
なるべく短くしたいと焦っていた高原さん。
”しかし今、振り返ると、前職が相当忙しかった分、
心身ともに休むことができた時間でした”と話す
高原さんは、こう続けます。
前職では、遅くまで残業が続く生活が続き、
目の前のことに追われて、自分がどう生きたいか、
どういう仕事をしたいか、ゆっくりと、
自分に問いかけたり、考えられなかったー。
この1年3か月というブレイク期間がなければ、
今の働き方や向き合い方は違っていたかと。
自分の生き方を”リセット”できた時間です。

6:これからキャリアブレイクを取る方へ
米国で仕事を開始してから1年半。
高原さんは、現地情報を発信するサイトを立ち上げ、
前職のつながりで、米国の政治や社会について調べたり、
学生時代から続けていたスチル撮影などの仕事を
フリーで請け負っています。
そして、最後にこう話してくれました。
「キャリアブレイクの理由や過ごし方は、
人それぞれ違うので、もちろん、
一括りでは言えないかもしれません。
学び直しの勉強期間だった人もいれば、
心身の充電期間だった人も。
でも、その理由が、私のような家族状況や
ライフイベントなどの事情だったとしても、
積み上げたキャリアが消えるわけではないと思う。
ただ、何のためのブレイクだったのか、
その時間から何を受け取ったのか。
必ず、何かしらアピールできることはある。
それを整理して、自分の言葉で語れれば、
きっと次につながると信じています。」
7:まとめ
キャリアブレイクは、必ずしも、しっかりと計画し、
意識してスタートした人ばかりでないかもしれません。
でも人生には、思いもかけない出来事に遭遇するのも事実。
人生100年時代の今、
途中で立ち止まったり、歩んできた道を
振り返ったりする時間は無駄ではなく、
そこで得た経験が、のちの人生や仕事に生きる。
キャリアの“文脈が変わる時間”となり、
次の一歩を踏み出す力に変わるのかもしれません。


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